独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
鮨 心
店主 中村 導昌
自分の夢のためではなく、 みんなで夢をかなえるのが目標です。
中村 導昌(Michimasa Nakamura)
1978年、埼玉県生まれ。高校卒業後、「築地寿司清」に入社して7年間勤務。その後、「意気な寿し処 阿部」に転職し、店長を務める。2008年3月に独立を果たし、白金に「鮨 心」をオープン。2013年8月、現在の南麻布に店舗規模を拡大して移転する。
2015年8月掲載
想いを込めたWカウンターで即興の舞台が繰り広げられます
「カウンターは舞台そのもの」と語る中村氏の言葉を借りれば、「鮨 心」には2つの舞台がしつらえられている。広々とした店内には、趣のある14席と8席のダブルカウンター。そこには熱い想いが込められていた。
「2年前に、スタッフみんなで夢をかなえようとつくった店です。以前の白金の店は8坪10席で、自分の夢を実現するためにつくりました。ただ、自分のためだけに店を切り盛りしていては限界がある。このままでいいのかと疑問が湧いてきたのです。自分の幸せではなく、みんなの幸せのためにという想いで南麻布へ移転しました。昨年頃から、その結果がだんだんと現れてきています。結果を出す方法を考え、みんなを導いてあげるのが今の仕事です」
店主だけではなく、同志であるスタッフたちにも”夢の舞台”に立てる環境が用意されている。
「お客様はミュージカルや歌舞伎のような即興のライブを観ている感覚だと思います。『これとこれを使って、どうしてこの味になるのかわからない。手品のようだ』とよく言われるんですよ。スタッフ一人ひとりが舞台役者ですから、どういうふうに何を出しても自由。もちろん、通し稽古としての練習はしますけれど、実際の舞台では炙っても味噌で出してもいいし、突然のり巻きから始めてもいい。ここで毎晩、即興の舞台が繰り広げられています」
細やかな演出にも気を配り、心安らぐ空間をつくり上げる。すっかり魅了されたお客様から、「他の鮨屋に行けなくなった」という声が聞こえてくるというのも納得がいく。
もうひとつ、他店ではあり得ないのではと思わせるのが従業員に対する関わり方だ。スタッフの間では、常に敬語。互いに”さん付け”で呼び合う姿は清々しくも感じられる。
「みんなが一緒、誰が上でも下でもありません」と、きっぱり言い切る中村氏。「今まで、自分が理不尽だと感じてきたことをなくすためにも」と語り、修業時代を振り返った。
お客様は偶然に集まるのではない
必然なのだと教え込まれました
鮨職人の道を志したのは、中村氏が高校3年生のとき、最初の修業先となる「築地寿司清」を会社見学したのがきっかけだった。
「お鮨をタダで食べさせてもらえると聞いて、見学に行きました(笑)。そこで、副社長に手を見ていただく機会があり、『あなたの手は鮨をつくるのに適している』と言われました。そのひと言が修業時代のお守りです。いつか、この手が輝くんだと信じて、大きな支えになりました」
家に戻った途端、「鮨屋になる!」と宣言。卒業後、採用が決まり、7年間の修業生活が始まった。ところが、中村氏の手が輝きを放つときは、そう簡単には訪れなかった。
「見習は先輩に『右を向け』と言われれば、右を向かなければなりません。つい理不尽だなと感じてしまうようなこともたくさんありました」
ただ、決して逃げ出しはしなかった。小学生から野球を続けて「誰よりも力がないのに、誰よりも荷物持ちをやらされた」という先輩との関係に慣れていたせいかもしれない。
「ゲームのようにまずは”小ボス”の先輩に認めてもらい、次に”中ボス”に認めてもらいとレベルアップしていきました。それでも、どうしても相手にしてもらえない先輩がいるんです。あのとき、頭を下げて相手の懐に入ることの大切さがわかりました」
ようやく店に自分の居場所を見つけることができると、今度は仕事がだんだんもの足りなくなってきた。「もっと広いところ」を求めて飛び出し、評判の繁盛店「意気な寿し処 阿部」の門を叩いた。
「お客様は偶然に集まるのではなく、必然なのだということを大将から教え込まれました。『頭を使え』とよく言われたものです。お客様の目の動きを見て、いくつも先を読まなければ仕事が追いつきません。仕事が終わった後も”大ボス”に認めてもらおうと、付き人のようについて回ったり、限界まで働きました」
入社3年目で広尾店の店長に就任。
「独立のシミュレーション」を経験させてもらい、2008年、目標だった30才で自分の店を構えた。
「すぐ目と鼻の先で営業を始めたのですが、大将が最大限に応援してくれました。『中村のところへ行ってやってくれ』とお客様に声をかけてくださったのです。おかげさまで小さな店でしたが、連日満席になりました。大将の懐の深さを感じて今、思い出しても涙が出そうになります」
中村氏が考える店主の心得
01 素直であれ
02 責任を持つ
03 人を大切に
従業員になってくれた人たちに見たことのない世界を見せたい
「お客様がいらしてくださったのは、変える勇気があるからだと思います」
現在の南麻布の地に拡大移転を果たすまでの人気店へと成長を遂げた秘けつを、中村氏はそう語る。
「たとえば、お盆も4回買い直しました。『センスがない』『かっこ悪い』などとお客様に言われるたびに、また合羽橋に行って買ってくるんです。こっちは宿題を渡されて、何とかしなければと必死なんですが、お客様は皆おもしろがって、無理難題をおっしゃるんですよ(笑)」
お客様の多くは中村氏より一回りくらい年上。独立当初より弟のように見守ってくれた”3人のお兄さん”が、今では数十人に増えているとか。
「こういう50才になりたいというような、かっこいい方ばかりです。いろいろな業界の方の意見を学んで、取り入れていきたいと思います。変わってはいけない信念はありますが、変化するのはいいこと。これからも、どんどん変わっていきたいですね」
狭い飲食業界のしきたりにとらわれず「鮨 心」は進化し続ける。中村氏が思い描く未来も型破りで、異彩を放っている。
「関わったすべての人に幸せになってもらいたい。何より従業員になってくれた人たちには、自分自身がそうだったように見たことのない世界を見せてあげたいと考えています。それには独立ではなく、ともに歩む仲間として、みんなで夢をかなえて共有するのが目標です。自分より仕事ができるようになってもらって、社長以上の給料をもらえばいいじゃないですか。独立するより、もっといい世界をつくりたいと思います」
鮨 心
住 所:東京都港区南麻布4-12-4 1F
電 話:03-3280-3454
定休日:年中無休
時 間:昼12:00~14:30(L.I.13:30)
夜17:30~翌2:00(L.I.24:00)
交 通:地下鉄日比谷線「広尾駅」より徒歩6分
文:西田 知子 写真:yama
2015年08月20日 掲載