独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
NIDO
オーナーシェフ 戸羽 剛志
みんなが喜んでくれること それが毎日がんばれる原動力
戸羽 剛志(Takeshi Toba)
1977年生まれ、東京都出身。高校卒業後、調理師専門学校に通って料理の基礎を学ぶ。その後、数軒のイタリア料理店で経験を積み、30才で本場イタリアへ渡る。帰国後の約4年半は新橋の「Trattoria okei」で働き、2015年に『NIDO』を大井町にオープンする。
2019年3月掲載
軽い気持ちで入った飲食の世界はとても厳しく、とても辛かった
大井町の駅から少し歩いた住宅街の中に店を構える「NIDO」。店名はイタリア語で”巣”という意味で、この言葉にはオーナーシェフである戸羽氏の強くてあたたかい想いが込められている。
「お客様にとって、いつでもフラッと立ち寄れるような居心地のいい憩いの場でありたいと思って名付けました。それと同時に、スタッフがいつでも帰ってこられる場所になれるように…という気持ちも込めています。うちのお店から巣立つスタッフにとって、それこそ実家のような存在になれたら、と」
おだやかな雰囲気を醸し出す戸羽氏らしい考えだが、そこに至るきっかけは彼自身の苦い経験にあった。
「僕がはじめて飲食の世界に足を踏み入れたのは、高校1年生の頃でした。ファミレスのキッチンでのアルバイトだったんですが、とにかく厳しくて(笑)。その後、専門学校時代にも飲食店でアルバイトをしましたが、どこも本当に大変で辛くて、この世界の厳しさを知ったんです。でも、その経験があったからこそ、僕のお店で働く子たちには楽しく働いてもらいたい。働く場所はその後の人生にも影響を与えると思うので…」
そんな気持ちから生まれた「NIDO」だが、戸羽氏自身、高校までは飲食の道に進むとは考えてもいなかったと話は続く…。
「母親がすごく料理が好きで、本人も居酒屋の店長として働いていたんです。だから家ではいつもおいしいごはんがでてきましたし、食べるのも大好きでしたが、自分でお店を持つことはまったく考えていませんでした。でも勉強が嫌いだったんで、なにか手に職をつけなくちゃ…となったとき、料理なら楽しいかなっていう軽い気持ちでしたね」
そして先ほどの話にもあったように、戸羽氏は飲食の厳しい世界を知ることになる。しかし、逃げ出したいという気持ちにはならなかったという。その理由は母の教えにあった。
「母親から料理の世界については聞かされていて、どんなに辛くてもひとつのお店で3年は続けないと意味がないし、料理人は10年で一人前なんだ…と言われていました。その言葉がいつも頭に残っていましたし、僕自身、負けず嫌いでしたから根性で乗り切っていましたね」
30才という区切りをきっかけに
イタリアへ行くことを決心…
こうして飲食の世界に進む覚悟を決めた戸羽氏は、30才を目前に控えたときに、イタリアで勉強しようと決意を固める。それは、飲食の世界に入って10年が経ったときでもあり、だんだんと楽しさを感じるようになっていた時期でもあった。
「そもそもイタリアンを選んだ理由は、かっこいいから。不純な動機です(笑)。でもやればやるほど楽しくて、勉強すればするほど料理の完成度が高くなる感じも僕は好きでした。あとはやっぱり、自分のつくった料理で誰かが喜んでくれるというのは何ものにも代えがたい喜びでしたね。ただ、もうすぐ30才…となったとき、このままでいいのか? と思ったんです。だから何か変わるきっかけになればと思い、イタリアに行くことにしたんです」
しかし、戸羽氏がイタリアで選んだのは普通のレストランではなく、アグリツーリズモという宿泊施設つきのレストランで、語学学校に通いながら、住み込みで働いていた。
「北イタリアのエミリア・ロマーニャ州という美食の街と呼ばれるところだったんですが、ここでの経験は本当に楽しかったです。小さなアグリツーリズモだったので、1日のお客さんの数は4人くらい。その方達と一緒に農作業をして、朝昼夕の食事をつくって……という流れなんですが、学ぶことはすごく多かったです。例えば、料理にはおいしさはもちろんですが、シチュエーションというか雰囲気づくりも大事だということ、それからイタリアではワインと料理がセットなのでその組み合わせも勉強しましたね。休みがあれば近所に住む知り合いのお母さんの家に行って郷土料理を教えてもらっていたんですが、そのおいしさに感動して、日本でもこの味を届けられたら…という気持ちになりました」
約1年半、イタリアで腕を磨いた戸羽氏は、日本に戻り、新橋の「Trattoria okei」で独立するまでの間、働くことになる。
「『Trattoria okei』のオーナーは元広告代理店の人で、飲食しかやってこなかった僕に刺激を与えてくれました。ここで経営を学んだといっても過言ではありません」
そして2015年、戸羽氏は念願の独立を果たすことになる。
戸羽氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 お客様にもスタッフにも愛される店づくり
02 いつまでも勉強する心を忘れない
03 仕事中はメリハリをきちんとつける
独立をした今でも、日々、勉強。目指したいのは長く愛されるお店
「こだわりは、イタリアの空気感を出すためにナチュラルでぬくもりのある内装にしたこと。それと、せっかく本場の郷土料理を学んだので、なるべく現地のかたちに近い料理を届けるようにしていることです。あとは、お客様の前でせわしない空気をださないこともそうですね。このお店は、すべての人にとって憩いの場所であって欲しいので」
オーナーシェフという立場になった戸羽氏が今、考えていることは?
「すべてを自分で決めたり、若いスタッフを育てたりすることは全部難しいけれど、それが壁になることはありません。模索しながらも進むことが楽しみであり、お店をやっている充実感にもつながるんです」
そんな彼が一緒に働きたいと思うスタッフ、そしてこれからの展望について最後に聞いてみた。
「一緒に働きたいのは、食べるのが好きで、忙しさも楽しいと思えるポジティブな人。僕はまかないにも全力を尽くすので、きちんと料理と向き合えるというのが大前提ですね。そしてこれからの展望なんですが、店舗展開は一切考えてなくて、このお店をとにかく続くお店にしたいということ。僕の料理を食べて元気になる人がひとりでも増えて、お客様にもスタッフにもずっと愛されるお店でありたいです。そのためにもこれからも日々勉強、向上心を忘れずに真摯にこの『NIDO』と向き合っていきたいと思っています」
NIDO(ニド)
住 所:東京都品川区大井1-55-12 ベルフルーレ 1F
電 話:03-6303-7499
定休日:日曜日
時 間:月~木・土 17:30~24:00
金曜日 17:30~翌2:00
交 通:各線「大井町駅」より徒歩4分
文:安藤 陽子 写真:yama
2019年03月07日 掲載