独立希望者必見!個人店オーナーからの熱いメッセージ
D’ORO HATSUDAI
オーナーシェフ 最上 翔
今まで受けた人の優しさを 店を通じて恩返ししたい
最上 翔(Sho Mogami)
1982年埼玉県生まれ。進学校に通っていたものの、料理修業の道を選ぶ。「ナプレ」「トルッキオ」などイタリアンの名店で修業した後、「D’ORO」を開業し、現在は2店舗を展開する。無類の釣り好きで、自ら釣り上げた魚をふるまうイベントも定期的に開催する。
2019年9月掲載
高校時代、病気を乗り越え、すし職人になると決めたはずが…
全長1メートルは優に超えるマグロと、それを自愛に満ちた眼差しで見つめる人物。彼こそが「D’ORO(ドーロ)」のオーナーシェフ、最上 翔氏だ。この大きなマグロは、取材前日に最上氏が自ら釣り上げたものだと嬉しそうに話してくれた。
「幼稚園の頃から魚が好きで、釣りはライフワーク。時々、こうして釣ってきた魚を捌いて、お店でイベントとして提供しています」
最上氏の経営する「D’ORO」は、イタリアンをベースに、フレンチの技法を織り込んだイノベーティブレストランだ。都立大学と初台で2店舗を展開している。両店とも調理技術の高さはもちろんのこと、最上氏やスタッフ達の誠実な人柄が表れた品々が、多くの人を魅了。何年も通い続けている常連客も少なくない、人気のお店だ。
幼稚園の卒園アルバムには「将来の夢はお寿司屋さん」と書くほどの魚好きだったという最上氏。幼少期はぜんそく持ちで身体が弱かったが、ときたま家族で行く寿司店の大将の、その凛とした立ち振る舞いに憧れた。小学3年生の頃からは、共働きの両親に代わって台所に立つようになり、料理の楽しさに触れたという。
中学と高校ではサッカーに打ち込み、プロを目指していた最上氏だったが、高校時代に大きな病気を患い、寝たきりの生活も送った。
「大好きだったサッカーや、得意だった勉強もできない日々が続き、大きな挫折感を味わいました。それは同時に自分の人生を見つめなおし、将来を真剣に考える機会に。ちょうど高校卒業後の進路を考える時期とも重なり、自分は何がしたいのか? を考え抜いた結果、やはり自分の原点は料理でした」
料理の中でも小さい頃からの夢であった寿司がやりたいと、地元の寿司店の門戸を叩いた。
「その店の大将は、すし職人は朝早いし、一人前の職人として握るまでには長い年月修業を耐えなければならない、と厳しさを説かれましたが、それでもやりたいという気持ちは揺るぎませんでした。……ですが、大将が最後に放った”すし職人は魚臭いし女性にモテないよ”という一言に、10代だった私の決意は変わってしまったんです(笑)」
当時はイタリアンがブーム。すし職人よりカッコいいと、まさかの方向転換。地元のイタリアンレストランで働き始めた。1年ほど経った頃、より厳しい環境に身を置いて高みを目指したいと、東京・南青山などでピッツェリア・トラットリアを展開する「ナプレ」グループへ。朝から深夜まで、誰よりも長い時間働き、研鑽を積んでいった。その頑張りが認められ、23才にして統括副料理長に抜擢された。やがて学ぶ立場から指導する立場になったものの、「まだ20代前半の自分はもっと学ぶべきことがある」と思うようになり、手打ちパスタの名店、九段下の「トルッキオ」へと移った。同店オーナーシェフの林亨氏からは、パスタの技術をはじめ多くを学び、副料理長も任されるまでになった。
飲食を夢が叶えられる業界に。
理想とする職場作りのため独立。
こうして料理の経験を積む中で、やがて最上氏の中にひとつの課題が浮かび上がってきた。
「これまで、一緒に働く上司や仲間には恵まれ、感謝しかありません。ですが、そもそもの飲食業界自体の在り方に疑問を持つようになったんです。意味のない上下関係や長時間労働など、生産性の上がらないやり方も多い。もっと効率よく、各人が楽しく、夢を持って働ける方法があるのではないか? 希望を胸に飲食業界に入ってくるものの、あまりにも多くの人の夢が潰えている現状に危機感を覚えました。これはもう自分でお店や会社を立ち上げ、理想とするステージを作るしかない。独立したいという思いが芽生えるようになりました」
こうして、最上氏は2012年10月、都立大学に「D’ORO」を開業し独立。たちまち評判が広まり繁盛店に。予約が埋まり、日々多くのお客様を断る状況となっていった。優秀なスタッフが育ったことで、2016年6月には2店舗目として初台にもオープンした。現在は両店ともに、それぞれ最上氏が信頼を寄せるシェフに料理を一任し、自身は結婚式の出張シェフやケータリング、レシピ提供など店外の仕事を精力的にこなしている。
最上氏が考えるオーナーシェフとしての心得
01 人を大切にすること。そうすることで自分も大切にされる
02 信念を曲げないこと。自分自身との約束も守ること
03 平等なジャッジを心掛ける、誰の意見にも耳を傾ける
原動力は「人の役に立ちたい」。自分が今まで受けた恩返しを。
最上氏が常に大切にしているのは「人の役に立ちたい」という思い。それは、過去に病で倒れたときに助けてくれた家族や友人、厳しい修業時代に夢を応援してくれた上司や同僚たちの存在があるからだという。
「今は2店舗とも、シェフに任せて、やりたい料理を表現してもらっています。私がやるのは、彼らが料理に専念できるよう環境を整えること。当店では、それぞれのスタッフが得意分野を活かして活躍していて、例えば、デザインが得意なスタッフがまぐろイベントのチラシを作ってくれています。私が今まで人から受けた優しさを、今度は私が恩返しをする番。スタッフが輝ける場にしていきたい」
今後は、現在行っている出張シェフの仕事を自社で事業化などを検討しているという。スタッフのやりたいことを実現するかたちで店舗展開も考えている。
「誰かを大切にするから、自分も大切にしてもらうことができる、と考えています。取引している業者の多くは、修業時代からの10年来の付き合い。本当はもっと安い業者もあるかもしれませんが、信頼関係には代えられません。料理も、どんなにいい皿を出しても、お客様を大切にして、喜んでもらえないと意味がない。これは、スタッフにも常々伝えていることです」
D’ORO HATSUDAI
住 所:東京都渋谷区本町2-40-1
電 話:03-3373-0555
時 間:11:30~15:00(L.O.14:00)
17:30~24:00(L.O.22:30)
定休日:不定休
交 通:京王新線「初台駅」徒歩4分
文:大関 愛美 写真:吉川 綾子
2019年09月19日 掲載