
第03回 遠州屋 本店 高尾


老舗の暖簾を無くしたくない、との想いから父親のもとで修行スタート。
大正15年創業。浅草山谷最古の居酒屋さん。と聞いていたので、かなり重厚な取材になるだろうと緊張して伺ったのですが、ところがどっこい、みなさんこんな笑顔で仕込み中なのでしたぁ。
左からお母さんの高尾陽子さん、太一さん、長年のスタッフ、山口はついさんです。
太一さんの曽祖父である秀光さんが創業、その後お父様の正行さんが引き継ぎ、5年前から太一さんが老舗の暖簾を任されています。
四谷や銀座のイタリアンでサービスの仕事を経験してきた太一さんは、地元のお祭りにも参加せず、浅草山谷から遠ざかった暮らしをしていました。それでも家業を継ごうと思ったのはどのようなきっかけがあったのでしょうか。
「2才から父に連れられて魚河岸に行っていたんですね。小学生のころは、この店が遊び場でした。仕事を始めてからは継ごうとははっきり考えていなかったんですけどね。でも、山谷で長く続けている暖簾をこのまま無くしたくないと思ったんです。それで、父親に修行させてくれと、直訴しまして。イチから料理を学ぶことにしたんです。もう喧嘩ばかりでしたけどね(笑)」
お父さんの職人技を盗み、毎日通う魚河岸の店主から目利きについて学び、帰宅後は料理や経営の本を読んで知識を吸収しました。お父さんと魚河岸さんと本が、太一さんの師匠なのですね。
今では老舗の味を守りながら、太一さんの感性を活かした時代性もプラス。メニューのバリエーションも広げました。
「新鮮なものをその日のうちに使いきる、ということを心がけています。でもまだまだ、店主として勉強中の身です」


新鮮な魚は毎日、鍋だって一人前から。地元みんなの「マイ台所」。
地元のお客さんで連日にぎわいをみせています。畳の座敷席では家族連れが鍋を囲み、カウンターでは銭湯帰りのおじさんが「マイ台所」として食事をしにきます。私が伺った夜には、近所の安い宿に長期滞在しながら日本を観光している外国からのお客さんの姿もありました。
営業中、とにかくパワフルなのがお母さんの陽子さん! 精力的に動き回り、声はハッキリと大きく、ホールのチームリーダー的存在です。「山谷の母」と呼びたくなりますね。
太一さんはキッチンの中で、料理に集中しています。混んでくると、もう秒単位で仕事をしているのが分かります。
私は刺身で一杯やったあと、「豚ちり鍋」(写真:下)をいただきました。すっごいボリューム、これで一人前ですからね。
浅草では鍋を一人前からオーダーできるのが当たり前! チェーン店にはないサービスですよね。
「銀座など、ずっと違う場所で仕事をしていたので、地元が遠い存在になってしまって、少し寂しい想いもあったんです。店を任されて5年経ちましたけど、最近ようやくこの町に僕自身が溶け込みはじめたかなぁと思うようになりました。町って生き物みたいで、お祭りとかに参加していた子供時代はすごく友達みたいな存在だったのに、少し離れるだけでよそよそしくなってしまう。町と仲良くなるって、それぐらい時間がかかることなんですね」
そう言いながら、太一さんは老舗の暖簾を今日も元気よく掲げるのでした。

創業者の高尾秀光さんの手書きによる看板を発見! 昔の人はなんでこんなに字がうまいんだろう(汗)。

冬限定の鍋はオススメ! これは具だくさんの豚ちり鍋ですが、ひとり分からオーダーできるのがいいですね!

広い畳のテーブル席には家族連れが、カウンター席にはときどきバックパッカーの外人客も訪れます。国際的!

- 遠州屋 本店 高尾
- 東京都台東区清川1-35-5
- tel.03-3871-4355
- 営:月曜~土曜17:00~翌1:00(L.O.)/日・祝16:00~23:00(L.O.)
- 休:水曜日
- 交:各線浅草駅徒歩10分
店主のおうちにお邪魔してごちそうをいただくような気分が味わえるのは、家業ならではの味わい。「遠州屋 本店 高尾」はチェーン店にはない空気感でとても幸せな気分に浸れました。浅草めぐりの食事処としてオススメです♪ さて、次のお店をご紹介いただきました。「『サルーテ』さんにぜひ! 店主のおさむさんとは深夜にバー『デューテ』でちょくちょくお目にかかっています」。ありがとうございます。それでは次回、吉原花園通り「サルーテ」さんでお会いしましょう。