
第29回 鮨 くりや川


江戸前の仕事をしっかりとしつつ、新しい感性もプラス。
歌舞伎役者のような低くハリのある声。握りに集中しているときは鋭い眼光ですが、話すときは人なつこい瞳になって親しみやすい。カウンターの向こう側から誠実さが伝わってきます。たぶん、交流も幅広く、ファンも多いのでは、と感じさせてくれる人柄ですね。
十代のころ、伊豆で営んでいる実家のすし店を継ぐ予定で東京~神奈川の名店に入り、10年間の修行人生にはいりました。すしばかりではなく、高級割烹、会席料理も学びました。そうやって仕事をするほど、実家に戻るより自分の店を立ち上げたいとの想いが強くなり、30才での独立・開業をめざします。
28才からは西麻布のお店で板長を任されるまでに。
「板長の仕事は2年をめどにしていたんですが、リーマンショックが起こったんですね。そこで辞めたら店に申し訳ない。人を育て、店を軌道に乗せて板長として責任ある辞め方をしようと。それでけっきょく34才に独立することになったのです」
実家に戻らなかったのは「自分の想いどおりの店にしたかったから」。そのために自己資金を貯め、出資者なしで、のびのびとコンセプトを練り上げたのです。
「緊張して寿司を食べても楽しくないので、適度にリラックスできる柔らかい空間をめざしました。ランチではお母さんたちが安心して料理を楽しめるように、ご予約いただければ個室をキッズルームとして開放し、専用のシッターをおつけしております。おかげさまでママ会などでご好評いただいているんですょ」
厨川さん自身、一児のパパ。日ごろの実感から、こうしたサービスが生まれたのですね!


職人でありながら、お客さま目線で考えるしなやかさ。
ランチコースでは、「はじめに一貫」としてその日の握りがトップバッターとして出てきます。まずは一貫食べて、気持ちを落ち着ける。それから先付、造りと進んでいきます。
夜のコースでは、おつまみ中心でいきますか? それとも握りを中心でいきますか? と尋ねるようにしています。お客さまのその日のコンディション、食べたいスタイルを把握し、そこからコース全体を組み立てるのです。
生もの→焼きもの→煮もの、といった常識的な順番にとらわれず、自由な発想で極上の美食をちいさめのポーションで提供するのも、くりや川スタイル。フレンチかと見間違えるような盛り付けで魅せることも。
次世代を担う、新しい感覚をもった店主です。
「私たちは職人ですが、つねにお客さま目線で考える習慣をつけることが大切だと思っております。江戸前の仕事をしっかりと施しながらも、楽しい要素も織り交ぜ、想い出に残るひとときになるよう精一杯の仕事をさせていただきます」
親方として、人を育て、独立のサポートもしていきたいとの情熱ももっています。すし職人をめざしている若い世代への、こんなメッセージもいただきました。
「給料は自分への投資に使ってほしい。ときどきでもいいから、お客として一流店に足をはこび、自分の目と舌と感性をフル回転させて、身をもって体験することをオススメしたいですね」
お客さま目線で──。厨川さんのサービスの基本はそういう体験からつくられてきたのでしょう。

8席のカウンターは、メニューなし、ネタケースなしのシンプルさ。個室はランチ限定でキッズルームにもなります。

コハダ、穴子、シメサバなど、江戸前の仕事が施された本日のネタ。酒や食材の情報は、ブログでも発信中です。(外部サイトへhttp://ameblo.jp/kosi0626)

恵比寿ガーデンプレイスからすぐ。階段を降りると枯山水がお出迎えしてくれます。さぁ寿司を食べようと気持ちが切り替わりますね。

- 鮨 くりや川
- 東京都渋谷区恵比寿4-23-10 ヒルサイドレジデンス地下1F
- tel.03-3446-3332
- 営:平日ランチ(予約制)11:30~14:00
ディナー18:00~23:00 - 休:月曜日
- 交:各線恵比寿駅徒歩5分
前回ご登場いただいた「レ マリアージュ ドゥ ガク」の和久井学さんや、今回の厨川さんのお話しを伺うと、恵比寿のレストランシーンに新しい世代の風が吹き出していることを実感しますね。さて次回も恵比寿のお店です。「私と同じく、実家がすし店ということもあり、親しくさせていただいています。『京しずく』の岡田さんは、若くして京都で厳しい修行を積まれ、恵比寿で京料理の店を開業されました。おすすめです」。ありがとうございます。それでは次回は京料理「京しずく」さんでお会いしましょう。