
第34回 ゲンエイワガン


緊張して、いざドアを開けると。フレンドリーさにホッとして。
とあるビルの階段を下っていくと、光が遮断されたドアの前へと降り立ちます。チャイムを押すと、内側からスタッフの応答、予約したときの名を告げると、重厚なドアが開かれます。モノトーンで無機質な質感を基調にした近未来的な空間。秘密クラブみたいな、怪しげなムードも漂います(汗)
でも、スタッフのみなさんは、とても気さくでフレンドリー、高まっていた緊張感が一気にほぐれるのでした。
入江瑛起さんは、熊本県出身。福岡のラーメン店での修行時代、自ら製麺マシンをつくってしまうほど、麺の研究にも取り組んできた達人です。
中目黒で飲食店のプロデュースを任されたとき、〆がラーメンという今のスタイルを確立。28才で独立を果たしました。現在は、週末を福岡の劇場型ラーメン店「玄瑛」で、平日はこちら広尾の「GENEI WAGAN」で仕事をしています。
完全予約制。おまかせコースのみ。お酒はいろいろ。泡盛をオーダーしたら、ドリンク担当のジャクソン君がなんと瑞泉酒造の「おもろ10年」を出してくれました。ありがとう、ディープな夜です。
「これからストレート麺を、ちりちり麺にしていきますね。福岡のお店で製麺したもので、水分量47%、そのうち10%が玉子です。しっかりと熟成させています。水分が多めの麺なので、通常ならぎゅっと握るとだんご状に戻ってしまうのですが……」
あれ、ぎゅっと握ったあと、麺がちりちりに! へーっ、どうして?
「女性だと思って、麺にやさしくコミュニケーションするのがコツなんです(笑)」


「もっと何かをしてあげたい」はリスペクトがあるから。
カウンター越しに、お互いを好きになれるか、あるいはリスペクトできる関係になれるかどうか──。入江さんは、ここをテーマにしています。
「立場の違い、男女の差など関係なく、同じ人間としてその人をリスペクトできたら、もっと何かをしてあげたいと思うでしょう? もっとおいしいものを食べてもらいたい、グラスにもっと並々とワインを注いであげたい、もっと長くお話ししていたい。そういう関係性をつくっていきたいと思っています」
ふたりの女児のパパであり、スタッフたちと仕事をするオーナーシェフでもあり、お客さまともコミュニケーションを取るサービスマンでもある。それらの関係性のまん中に「リスペクト」したいという気持ちがあるのですね。
「スタッフを育てるという発想はないんですね。スタッフともリスペクトしあえる関係でありたいからです」
お客さんの側からも同じことが言えそうです。入江さんを好きだから、また来店する。リスペクトできるから、自分の大切な人を紹介したくなる。
私が今回いただいたのは「潮薫る醤油ラーメン」でした。その名の通り、まず潮が香りたち、追いかけるように、ほんのりとやさしい魚介系醤油スープを纏ったチリチリ麺が口のなかでほどけていきます。泡盛にも、合う!
お隣の常連さんには、まったく違うコンセプトのラーメンが出されていました。通うほど、語りあうほど、その人がもっとよろこぶラーメンを食べてもらいたくなる。これも、入江さんのリスペクトの表現なのですね。

入江さんが一番好きな「潮薫る醤油ラーメン」。この他、来店数などによって、さまざまなラーメンが用意されています。

階段を下り、照明の落とされた店内へ入ると……。この三名のフレンドリーな笑顔がお出迎え♪ ホッとするのでした。

近未来的なインテリアで構成された店内。飲むほどに、ゆったりと濃厚な大人のひとときを堪能できる空間です。

- ゲンエイワガン(GENEI WAGAN)
- 東京都渋谷区広尾1-10-10 NKビル B1F
- tel.03-3449-6010
- 営:18:00~24:00
- 休:日曜日
- 交:各線恵比寿駅徒歩10分
いやー、麺が新鮮ですばらしくうまかったです。パスタでいうと、ピエモンテ名物「タヤリン」みたいな。スタッフのみなさんのあたたかさと、ラーメンの奥深さを思い知った一夜でした。さて、次のお店をご紹介いただきました。「田村シェフとは、あるTV番組で対決させてもらったこともあります。『麻布長江 香福筵』さんのマーボー豆腐は大好きなひと品です。リスペクトしています」。ありがとうございます。それでは次回、久々の中国料理でお会いしましょう。