
第75回シュヴァル・ド・ヒョータン (Cheval de Hyotan)


立地といい、経歴といい、まさに「ヒョウタンから駒」
西池袋にこんな閑静なエリアがあったんですね。交通量の少ない広い道路沿い、周囲には立教大学や東京芸術劇場、新しいマンションなどが点在する文教の住宅地。ガラス張りのファサードから見えるのは、フレンチらしからぬ空間でした。
北欧の森林に囲まれた邸宅のようでもあり、日本のどこか湖のほとりに立つダイニングカフェのようにも感じる。ひとつ言えることは、カウンターや椅子などに天然木の質感が生かされているので、とてもあたたかいイメージがあるということ。席についてすぐ深呼吸がしたくなるような空間でした。
素敵な笑顔で語ってくれたのは、サービスを担当している川副貴央さん。その立ち振る舞いから、あるいは優しい言葉を選びながらのおしゃべりの雰囲気から、何年もレストランで仕事をしてきた人かと思ったら、以前は外国為替のブローカーという仕事をしていたそうです。
立地といい、経歴といい、まさに「ヒョータンから駒」ですね。
「刻一刻と変動する相場を確認するためにじっとコンピュータ画面に向き合うよりも、もっと人と接する仕事がしたい、人の笑顔と出会えるような仕事につきたいと思うようになって。それで現在シェフを務めている川副藍が当時、ル・コルドン・ブルーで学び、都内のレストランで仕事をしていたこともあり、私もワインの学校に通いながら、ふたりでレストランを開業するタイミングを探していたんですね。その意味ではアマチュアなんですょ(笑)」
ふたりが考えた方向性は「日常以上、特別未満」を演出するレストラン。
クロスの敷かれていないテーブルにはお箸もセットされ、リラックスした気分でフランス料理を愉しめます。しかもコースターはヒョータン型。ホッとできるユーモアのセンスですよね。
池袋のイメージを新しく塗り替えてくれそうな新感覚フレンチレストランが2012年、こうして誕生したのです。


徒歩でのんびり帰宅するような、コアなお客さまに支えられて。
インタビューの途中も、インターネット関連でしょうか、営業マンが来訪していましたが、川副さんはすべて丁重にお断りしていました。
「メディアを利用しての集客は考えていないんです。今回も、グルメ記事ではなく、若い世代の飲食人に向けての記事とのことでしたのでお受けしたんですょ。でも、私の話しなどでは記事になんかならないでしょう?(笑)」
東京の城北エリアで生まれ育ち、人と接する仕事がしてみたい、との想いでレストランを立ち上げた川副さんにとっては、メディアを介してではなく、実際にご来店されたお客さまとのコミュニケーションを大切に考えているのですね。
「ファンは少なくても、本当にコアなお客さまに支えられてここまでやってきました。とても感謝しています。地元の方から『今夜はヒョータンでも行くか』と言っていただき、お帰りも徒歩でのんびり帰宅するような、このエリアならではの環境を大切にしていきたいと思っています。この通りはまだレストランがほとんどありませんけど、もしかしたら数年後には飲食店がいくつもオープンして、ワクワクするような大通りになっているかもしれませんね」
ディナーで3,800円~のコースが用意されていますが、アラカルトも愉しめる気軽さが地元のコアなファンを獲得しつつあります。
川副さんセレクトの南仏を中心としたフランス産ワインの他、オーストラリア、ニュージーランド産などのワインも。常時80本ほどがラインナップ!
ほとんどの席から、カウンター越しに料理をつくる川副藍シェフの仕事ぶりをうかがうことができます。お客さまとの距離感も、とても近い。
池袋の一角がおもしろいことになっている──。
そう思わずにいられないフレンチレストランでした。

テーブルクロスもなくヒョータン型コースターの横にはお箸もついてカジュアル感を演出。

天然木の質感を生かした空間には、森林をイメージさせてくれるこんなオブジェも。

ほとんどの席からオープンキッチンで仕事をするシェフの姿を垣間見ることができます。

- シュヴァル・ド・ヒョータン (Cheval de Hyotan)
- 東京都豊島区西池袋3-5-7 ウィルコート1F
- tel.03-5953-3430
- 営:ランチ11:30~13:30(L.O)
- ディナー18:00~23:00(フードL.O.21:00 ドリンクL.O.22:00)
- 休:水曜・第3火曜
- 交:各線池袋駅徒歩6分
ひょーたんから駒とはよく言ったもので、川副さんの既成概念にとらわれないお話しの中にいくつもの「ひょーたんから駒」的な世界観がうかがえたような気がしています。さて、次のお店をご紹介いただきました。「大好きなダイニングバーで、ほぼ同年代のオーナー藤崎さんがやっておられる『オレンジ』をぜひご紹介したいですね。少し懐かしい音楽も楽しいですょ」。ありがとうございます。それでは次回も池袋の深い夜にお会いしましょう。