
第5回 FOS(フォス)


和の空間で味わう、シングルモルト。いつもと違うテイストを求めて。
靴を脱いで入るバー、「FOS」。イチョウの一枚板でできたカウンターテーブルの前に座ると、オーナーバーテンダーの森崇浩さんが静かなトーンで出迎えてくれました。
古民家を改築した内装は、木のぬくもりが感じられ、奥には坪庭も見えています。
しばし和な空間に魅了され、思わず「泡盛はありますか」と失礼なオーダーをしようとした私に対して、「基本的に洋酒を楽しんでいただいているんですょ」と穏やかな口調で森さん。
洋酒の馴染みの浅い私は、以前素敵なバーで、マッカランを飲んだことを思い出し、「マッカランとは別世界のシングルモルトにチャレンジしたいデス!」とオーダーしました。
優しく、さりげない説明と共に、「いかがでしょうか?」と提案されたのは「LAPHROAIG(ラフロイグ)」の10年もの。
フォークではなく、お箸のセット。お箸の素材はたぶん、柿の木でしょう。紺色の着物の生地でつくられたマットの上に、いよっ! でてきましたラフロイグ!
「アイラ島にある蒸留所は海辺に建っているため、潮の香りを呼吸し、海草のようなアイラモルトならではの味わいをつくりだしています。おつまみは潮の香りをイメージできるサーディンのオーブン焼きなどが合うと思いますょ」
まずはラフロイグを一杯。そしてまだグツグツと音が消えないサーディンのオーブン焼きを頬張りました。……、うん! ラフロイグはほどよいクセがあって、クセ好きな私には最高(笑)だし、確かにサーディンが合いますね! おすすめの組み合わせです。


バーテンダーとは「感じる仕事」。お客さんの数だけ、カクテルがある。
「お客さんの飲みたいものを察知し、あるときは提案し、あるときはカクテルとしてカタチにする。バーテンダーさんって、どういう瞬間に、お客さんの飲みたいものを察知するのでしょうかね。とても不思議です。
「バーテンダーとは『感じる仕事』だと考えています。たとえば同じジントニックといっても、その作り方によってはAからZまで、様々な味わいのジントニックができると思うんですね。お客様一人ひとりのちょっとした会話の中から、Aを求めているのか、それともCなのか、Zあたりなのか、そのヒントをつかむようにはしています。いまだに当たり外れの連続ですけどね(笑)」
女性のお客さんなどは、銘柄でオーダーするよりも、嗜好を優先し、こんな味のカクテルが飲みたいとリクエストすることも多いですよね。それって、バーテンダーさんにとっては砂漠の中を手探りするような、難しいオーダーでは?
「言葉を吟味します。女性の方はよく『さっぱり』したものが飲みたいと言われますが、その『さっぱり』にもAからZがあって、女性の場合はその多くが『甘さっぱり』だったりするんですね。男性の味覚ではその『甘さっぱり』は、『甘い』と感じると思います。そうやって、言葉を感じながらカクテルなどをつくるようにしているんです」
森さんのアタマの中には、味覚や香りや色彩の座標軸みたいなチャートがあるのかもしれません。
「私などはまだまだですけど、でも美味しいって言われると、あぁこの仕事を選んでよかったと思えるんです。カウンターを挟んで、ダイレクトに笑顔を見られるのが何よりの喜びです」

アイラ島でつくられる個性的なシングルモルトウイスキーには、潮が香るサーディン系のおつまみがピッタリ!

築40年の民家を改築したカウンターバー。風情あふれる天然木の質感が郷愁を誘います。奥には坪庭も。

路地で迷子になりながらやっと見つけた和風の建物。格子戸の脇に小さな店名が灯っていました。

- FOS(フォス)
- 東京都台東区浅草3-37-3
- tel.03-3872-8804
- 営:19:00~翌4:00(L.O.3:30)
- 休:火曜日
- 交:各線浅草駅徒歩5分
森さんは他にも2店舗、立ち飲みスタイルの「BOO(ブー)」とスパゲッティストア「ガルボ」を浅草で展開しています。「スタッフのモチベーションが上がると新店を立ち上げたくなるんです。といいつつ、次回ご紹介したいのは友だちのお店です(笑)。愛媛出身の女将がやっている『笑ひめ』さんはオススメです!」。ありがとうございます。それでは次回、浅草の「笑ひめ」さんでお会いしましょう。