
第40回 バー チェロ


わいわいガヤガヤな気分も、ひっそり飲みたい夜も、ここ一軒で。
面白そうな飲食店が立ち並ぶ三軒茶屋すずらん通り。一度は見逃してしまった「バー チェロ」を、通りの中ほどに発見。にじり口のような小さなエントランスは、まさに隠れ家的です。
大きくふたつの顔がありまして、ビルの2階がピンチョスやパスタでわいわいガヤガヤとワインを楽しむイタリアンな「バル」、3階が大人ひとりで立ち寄りたいディープな「バー」となっています。
前回ご登場いただいた岸本昌子さんも、その夜の気分でお腹が空いているから2階で、とか、今夜はゆっくりとシングルモルトウィスキーを傾けながら、などと使い分けているようです。
ビジネス帰りに立ち寄る人、自宅から歩いてやってくる人など、地元に根付いているお店です。
お店のオープンは2004年。ここ三軒茶屋に移転してきたのが2009年。もうすぐ10年を迎え、老舗の仲間入りを果たすほどのお店なのですね。
「三軒茶屋という街は、下町っぽさもあって人情味の熱い街ですね。さまざまなライフスタイルの人たちが住んでいます。そして気に入ると、ずっとここに住みたくなる。私もそのひとりですけどね(笑)。この街で、バルとバーをやっていくうえで、スタッフみんなで心がけているのは、かっこつけず、ひとりひとりのお客さんに丁寧に接していこうということ。常連のお客さんとも友だちじゃなく、公平なサービスをしていこうと思っているんです」
下町情緒も残っている人情的な街だからこそ、きちんと距離感をもってお客さんと接する──。こうした考え方をブレずにやっているから、長い間街に根づくことができるのかもしれませんね。


距離感を考えながらのサービスだから、みんなが楽しくなれる。
それにしても、バーを経営する人は、物腰が柔らかい人が多いですね。稗田浩之さんも例外ではありません。丁寧に挨拶をし、誰でも誠実に向き合い、自分のコトバで話す。存在そのものが静かで、長くいっしょにいても疲れない。
こういうキャラって、やろうと思ってできるものではありません。天性的なものであり、そこに知識や技術がついて、はじめてバーの経営者となるのでしょう。
2階から3階に上ると、さらに照明を落とした空間が現われます。
カウンターの中には稗田さんがひとり。ターンテーブルにレコードを乗せると、タンノイのスピーカーから、エレガントなクラシック音楽が流れます。
希少なシングルモルトウィスキーの説明をするときの稗田さんはとても楽しそう。フレッシュカクテルは、ベースとなるお酒や季節のフルーツをお客さんの好みを聞きながらつくります。そして、ここでも距離感を大切にします。稗田さんとプライベートなおしゃべりをするお客さんもいなければ、稗田さん自身、お互い見知らぬお客さん同士をつなげる役割もしません。
「紹介すると、どちらかが聞き役に回ってしまって楽しく酔えないとか、申し訳ないシーンをつくりたくないからです。私の趣味のことなどバーテンダーがプライベートな質問をされたらとしたら、私の仕事にスキがあるからだと思うんですね。いつも気をつけているポイントです」
稗田さんは、すべてのお客さんに楽しんでいただくために、「距離感」をミリ単位の精度で計って、サービスにつなげているのかもしれません。

2階は元気いっぱいのバル。ひとりで、グループで、ワインをガブ飲みしながら、ピンチョスやパスタをどうぞ。

「LONGMORN」の42年もの! この他にも、希少価値の高いシングルモルトウィスキーを取り揃えています。

腰をかがめながら入る「にじり口」。秘密にしたい隠れ家っぽいエントランスが、大人ごころをくすぐります。

- BAR CIELO (バー チェロ)
- 東京都世田谷区太子堂4-23-5 ファントビル2F-3F
- tel.03-3413-7729
- 営:2Fバル(月~土)18:00~翌3:00、(日)18:00~翌2:00
- 3Fバー(月~土)20:00~翌5:00、(日)20:00~翌2:00
- 休:無休
- 交:各線三軒茶屋駅徒歩1分
久しぶりの三軒茶屋でしたが、訪れるたびにいいお店を発見します。稗田さんから、さっそく次のお店をご紹介いただきました。「以前、いっしょに働いていたこともある仲間の店です。いまだにウドンを脚で踏んで仕込んだり、ものすごい手間をかけた料理を出すのが『高太郎』。とても気さくな人間で、おもしろい話しが聞けると思いますょ」。ありがとうございます。それでは次回、渋谷の人気店「高太郎」でお会いしましょう。