
第42回 BAR KOBA


あたたかい距離感による、サービス&カクテルづくり。
小羽広人さんは、32才。ことしの8月に「BAR KOBA」をオープンしたばかりです。
このごろ、30代前半の世代が新しい感覚の店づくりを展開しているという印象を強くもつのですが、小羽さんもそんなひとりかもしれません。
路面店の特性を活かし、外から見たとき店内を完全に閉ざすことなく、かといって見えすぎない、絶妙なファサード。
柔らかいピンクと黄色の壁面、杉の丸太のテーブルの脚。間接照明やキャンドルの灯りもなく、カウンターには余計なものは一切なくシンプルそのものです。
いわゆるオーセンティックな空間というより、南のリゾート地にありそうなモダンなバーという感じ。
でもモダンすぎることもなく、タンノイのスピーカーからはシチュエーションに合わせてさまざまな音楽が静かに流れ、低めに腰をおろせる椅子がとても落ち着きます。
お酒はスタンダードに揃っています。小羽さん自身、ブランデー好きとのことで、今後少しずつブランデーにも力を入れていくそう。
つまり、とんがりすぎず、モダンすぎず、バランスがいい。新世代ならではのバー空間になっています。あとは、お客さんの存在やカウンターに置かれたグラスによって色づけされ、バーとして完成するのかもしれませんね。
「自分がまだまだ未熟者ですし、私が成長していく過程に合わせて、すこしずつ空間もバージョンアップできたら、と考えているんです。住宅街ということもあり、あたたかい距離感でお客さまとも接するようにしているんですょ」


背伸びせず、今の年齢のじぶんに謙虚で忠実でありたい。
32才でカウンターにひとりで立つ小羽さん。代々木エリアの高級住宅街ということもあり、小羽さんより年上のお客さまも多く来店します。
「初めてバーに来られるお客さまにも、バーをよく利用されるお客さまにも、同じように楽しめるバーでありたいですね。そのために、バックバーをつくり、ひとりでもボトルやグラスを眺めながらお酒を愉しんでいただければと思っているんですょ」
ホワイトレディをつくっていただきました。
腕が長い小羽さんのカクテルづくりはとても華麗に見えます。
「一杯のカクテルをつくることも、私にとっては大切な経験であり、スキルの積み上げであると思っています」
オーナーバーテンダーとして、決して背伸びせず、かといって媚びることもなく、今の年齢のじぶんに謙虚で忠実でありたいと、小羽さんは思っているのかもしれません。年齢を重ねるごとに、バーテンダーとしての年輪が広がり、味わいが出そうですね。
バーの仕事を選んだのは、若い時代の経験からだそうです。それは初めてバーに行ったときのことでした。
「酒を飲み始めた若ぞうのころ、恐るおそるバーという場所に入ってみたんですね。そうしたら、クリエーティブの仕事をしている人がすごくウィスキーに詳しかったり、高そうなスーツで(笑)お酒を飲んでいる紳士がいたり。会話もすごいかっこいい。いやぁ、バーってすごい空間なんだ!って思い知らされたんです。バーが輝いて見えた。あのときの衝撃があったから、私は今こうして仕事をしていますし、あの気持ちをこれからもずっと忘れないで仕事をしていきたいと思っているんです」

ボトルの横には、タンノイのスピーカーが設置されていました。シチュエーションに合わせて、幅広く音楽がチョイスされます。

しなやかな身のこなしでつくってくれた「ホワイトレディ」。キリリと冷えて爽やかな味わい。引き締まったおいしさでした。

オーセンティックなバーとはひと味違う空間。ブラジル人建築家のルイス・バラガンをイメージしながら、小羽さんスタイルで仕上げました。

- BAR KOBA(バー コバ)
- 東京都渋谷区富ヶ谷1-17-7-1F
- tel.03-5738-7833
- 営:18:00~3:00
- 休:年内(2013年)は無休
- 交:代々木八幡駅徒歩5分
ひとりで休みも取らず仕事をしている小羽さん。店をオープンさせるということは、大変なことなのですね。さて次の店をご紹介いただきました。「マティーニをこよなく愛する同年代のバーテンダー仲間がうちより早く6月にオープンさせたのが『バープレッジ』さん。うちとはうって変わって、オーセンティックなバーです。おすすめします」。ありがとうございます。それでは次回、幡ヶ谷の新しいバーでお会いしましょう。